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ななしの記録ログ。

時差半年の片思いをひたすらつづる、自分用記録若しくは記憶ログ。

(二次)夢のつづき

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夢のつづき

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※注意書き
・2015年夏に書いた、完全なる自己満足のショートストーリーです。
・仮○ライダー555の本編とは全く関係ありません。
・分かる人がここまで辿り着く確率は低いけど、せっかくなのでこっそり。
木場さんが生き延びています
たっくんが途中で死にます。 ・まさかとは想いますが、無断転載禁止です。

★☆★☆★☆

 突然の風にカーテンが音を立て大きく揺れ、白い病室は一瞬ミント色に染まる。
男の人が椅子から立ち上がり窓を閉めた。なびくカーテンの音が消え、病室は再び静寂に包まれた。男は窓際に立ったままカーテンを開け外を眺めている。

 時間が止まったかのような静寂を破ったのは、ベッドの上で眠っていたもう一人の男だった。

 数日も動くことのなかった指の筋肉が痙攣のようにはねた。伏せたままだった睫毛が小刻みに震え、やがて黒い瞳が空気に晒される。暗闇に慣らされた目はぼやける視界の中、ナイフのように刺さる明かりにその形を歪める。

「木場?やっと目が覚めたか~」

 彼の耳に聞き覚えのある声が届いた。頭がもうろうとしていて声ははっきりとしないが、誰の声なのかはすぐ分かった。すべてを失ってしまった者同士で寄り添って過ごしたあの頃の、仲間の声だ。

「海堂…」

 自然と名前が唇からこぼれる。
 明かりに慣れはじめた瞳が海堂の姿を捉えた。目が合うと木場は困ったような顔で微笑んだ。

「俺は、また死に損なったのかな」

 一度死んだ命、今更惜しいとは思わない。
 ーーーそう言えば嘘になってしまう。

 たくさんの命を奪い、仲間を裏切り、周りを傷付け、それでも生き延びていることがうれしい。木場はそのような自分の感情に心底嫌気がさした。

「何それ?冗談のつもりなら笑えないんだけど。ちゅーか、あんたにまで死なれたら俺はどうすりゃいいんだよぉ。は、はやく元気になれっちゅーの」

 だが目の前で自分が生きていることを喜んでくれる海堂の存在は木場も素直に嬉しく思えた。
 泣いているのか笑っているのか、それとも怒っているのか。もう分からなくなった顔の海堂を見上げながら、木場は微笑んで、もう一度目を閉じる。

★☆★☆★☆

「オレサマ、旅に出ることにしたから」

 海堂がよく使っているあの鞄をパンパンに膨らませて木場に告げた。
 木場が退院してしばらくした日のことだ。

「俺らってさ、いつまで生きていられるか分からないじゃん?だったら、その、どう生きるのが一番俺らしいのか、あんたが寝ている間ずっと考えていたわけ。うん、ずっとね?」

 オルフェノクの王は倒された。しかし、一度は覚醒したことによって、少なくともその周りにいたオルフェノクは何らかの影響を受けている。自分があの時死なずに済んだのもその影響を受けてたためではないかと木場は思っている。それでも、完全な覚醒を遂げてないオルフェノクの寿命は長くは持たないだろう。海堂も同じ考えで、この限られた命をどう過ごしたいか眠ってばかりの木場の隣でひたすら考えていた。

 突如な海堂の言葉にただ瞬きをしながら彼を見上げている木場に、海堂は話を続ける。

「それで、俺は旅に出る!そう決めた!いくらお前が泣いて止めても聞かないからな!ちゅーことで、あとはよろしく!」

 木場が何かを言い出すよりも前に海堂は颯爽と消えた。ドアの向こうからドタバタと大きな物音がしたがすぐにまた静かになった。海堂はいつだってそうだ。捕まえることのできない風のような男。自分とは違うと木場は改めてそう思った。それと同時にそれでいいとも思った。

 木場はひとりきり残された広い部屋のソファでそのまま横に倒れ寝転がる。
 長田も海堂も、木場の前からいなくなった。

「これからどうすればいいのかな」

 今にでも消えそうな吐息にもにているその声は、もう誰の耳にも届かない。

★☆★☆★☆

 その日の夜、呼び鈴が鳴り木場が玄関に向かう。予想外の訪れに慌てて確認もせずにドアを開けるとこれはまた予想外の人物がいた。

「えーと、どうしたの?」

 木場の質問に乾は何ともいえない複雑な顔でそっぽを向いた。その後ろにいた園田が乾を横に退かして明るい声で挨拶する。

「退院したと聞いたから、どうしいてるのかな〜って」

 やはり木場をひとりきりにしておくことが心掛かりだった海堂が、乾たちに話しておいたのだ。最後は和解したとはいえども、ついこの間まで本気で殺すつもりで戦っていた相手を前にどう反応すれば良いのか分からず木場の表情が消える。自分の顔の筋肉がおかしいことに気付いた木場はいつものように優しく笑顔を取り繕った。

「ありがとう。心配してくれたんだね。立ち話もなんだし、上がって」

 その翌日から木場は菊池洗濯舗に度々遊びに行くようになった。寂しさもあったが、何より同じオルフェノクであり、自分が取り返しのつかないことをしてしまった乾の近くに居たかった。

 園田が本格的に美容室で働くことになって、人手の足りなくなった洗濯屋がいつもに増して忙しかった日、居合わせていた木場の接客や手際の良さに目を付けた菊池が「忙しいときに手伝ってもらえるとうれしいんだけど」と木場を誘い、ひとりでいつまでもあの広い部屋にいるのも忍びなかった木場は、それからほとんどの時間を洗濯屋で過ごすようになった。

 園田は美容室に、菊池は真っ白な洗濯物の配達に。
 二人きりで店番をしていた時、乾が何気なく木場に話しかけた。

「あんたさ、夢持ってるか?」
「夢…」

 その言葉に海堂の件を思い出して、木場の瞳が翳る。

「俺さ、ずっと夢が持てなかったんだよなぁ。自分が普通とは違うって分かっていたから持てる気にならなかった」
「そうなんだ…」

 達観したような落ち着いた声で話す乾だったが、あることに木場は気付いた。

「過去形なんだね」

 木場の声に乾がそちらを向く。目が合うと乾は照れたような笑顔を見せた。年相応の可愛い笑顔だ。

「ようやく見つけたんだ。世界中の洗濯物が真っ白になれますように。それでみんなが幸せになれますように。啓太郎の受け売りだけどね」
「いい夢だね。君なら叶えられるよ、きっと」

 乾の言っていたことを噛みしめながら木場が感心する。夢という言葉は甘くて心を躍らせるが辛いときだってきっとある。それでもここの3人の様子を思い浮かべると彼らの夢はきっと叶うだろうと木場は思った。

「あんたはどうなんだ?」
「どうなんだろうね。もう分からなくなっちゃったなぁ」

 乾が聞くと木場はばつの悪そうな表情で笑い誤魔化した。

 オルフェノクと人間が共存する世界。そういうことを夢見ていた時期もあった。しかし木場の心は優しくて温かくて、そして、脆かった。深く絶望して自らその共存を拒み夢を捨てた。

 スマートブレインが破れ、オルフェノクの王も倒された今、木場が人間のように生きることは不可能なことではない。しかし彼はオルフェノク、人間より極端に短い寿命を持つ存在だ。今だって乾の灰化が進んでいる。園田や菊池には内緒にしているようだが木場には分かる。そして、その最たる原因は自分であることも分かっている。だからいくら乾から気にするなと言われても木場の胸の痛みと罪悪感は消えない。やるせない気持ちに木場が目を伏せた。

 木場の顔色が悪くなったことに気付いた乾が不器用ながらも慰めの言葉を探す。適当な言葉が見つからずただ木場の肩に手を置いて宥めるようにトントンと叩いた。

「俺にだって出来たんだ。あんたにだってそのうち見つかるさ」

★☆★☆★☆★☆

 月も雲に隠れ真っ暗な夜。乾が突如、木場のマンションを訪れた。
 そして灰になって消えてしまった。後形もなく。

「そろそろ限界みたいなんだ。さすがに真理や啓太郎には見られたくないからさ。あんたになら分かるだろう?」

 そう言ってよろけながら木場の肩に手を置く乾の手がだんだん灰になる。

「俺はさ、自分の人生に結構満足しているんだ。笑いながら死ねるって最高だろ?でももうちょっとみんなといたかったな。あんたとももっと仲良くなりたかった。…みんなのことよろしく頼む」

 彼を支えようと伸ばした両手は宙を舞うだけだった。
 笑顔のまま消えてしまった乾の欠片を握りしめて木場は泣いた。無性に悲しくて胸が痛くて。

 押し寄せる罪の意識のなかで、彼とのすれ違いだらけだった思い出がぽつりぽつり蘇る。彼へ向けた園田や菊池の思いを考えると胸が痛む。
 悲しみの奥底で、またひとり自分の前から消えたという寂しさと、自分もそのうち灰になってしまうという恐怖も湧き出す。

 その様々な感情を洗い流すかのように涙は止まらなかった。
 その涙の果てで木場が拾ったのは、取り残された乾の夢だった。

 翌日、木場は腫れた瞼を冷やしてから、いつの日かジャムを作ると言って長田が買ってきた大き目のガラス瓶の中に灰を丁寧に詰めた。それが終わるとしばらくしてから楽しかった思い出も辛かった思い出も数えきれないほど詰まっているマンションを後にし、菊池洗濯舗へ向かった。

 いつもと違う雰囲気の木場に園田は何も聞かず、ただ彼が抱えていたガラスの瓶を木場ごと大事そうに抱きしめた。園田も菊池も、乾の灰化には薄々と気付いていた。覚悟はしていたつもりだったけどやはり実際に起きると全く違う。菊池もたまらず二人を、三人を包むように抱きついた。

 木場の服に丸い染みがいくつも滲む。

★☆★☆★☆★☆

 先に旅立った人たちへの思いを繋いで、3人は一緒に暮らすことにした。
 厳密にいうとそう決めたことではなく、気がつけば自然とそうなっていた。

 そして続く「いつもと変わらない」平和な日常。

 梅雨明け、久々に天気が良かったことを口実にして3人は近くの川沿いへピクニックに行った。園田と菊池はバドミントンをはじめ、それを少し離れたところに腰掛けた木場が見守る。往き来するシャトルコックを追う視線の先に川が見えた。川の向こうでは楽しそうにボール遊びをしている子供たちが見える。懐かしい気がして無意識に木場は手を伸ばす。

 すると、急に誰かの手がその手を掴んだ。木場が驚いて勢いよく立ち上がる。
 自分を掴んだ人の手から肩へそして顔へたどり着くと、海堂がいた。木場の目が皿のようにまん丸になったが、すぐ目を細めて微笑む。

「旅はもう終わったの?」
「オレサマやはり優しいからさぁ、一人ぼっちで寂しがっているのではないかって心配で、ちゅーか、マンション空っぽだし、洗濯屋は休みだし、探すの大変だったんですけど!」

 海堂が拗ねたように口を尖らせる。それが可笑しくて木場が笑う。

「ごめんごめん。あそこは俺ひとりじゃ広すぎたから」

 そう言う木場の言葉にも「言い訳は聞かん!」と一喝して海堂はそのまま彼を押し倒した。二人はそのまま芝生の上を仰向けに寝転び、お互い目が合うと笑いだした。

 落ち着いてから空を見上げると、どこまでも晴れ渡った鮮明な青が目に入る。「綺麗だね」と無意識に感想が溢れる。

「海堂、前に夢は呪いだと言ったこと覚えてる?」
「なんじゃそれ、もう忘れたー」

 海堂やはり変わらず掴めない人だなと木場は思った。しかし、彼はそれでいいのだ。彼がもう夢について暗い感情がないならそれに越したことはない。木場は上半身を起こして海堂のほうを見る。

「俺ね、夢見つけたかもしれない」
「お、なんだなんだ?」
「乾くんの夢を叶えてみようかなーって」

 そこまで言って木場は海堂の顔を窺う。海堂も釣られて上半身を起こし座り直す。興味津々な真っ直ぐな目に促され木場は話を続ける。

「彼の、やっとできた夢を奪ったのは俺だから。せめての罪滅ぼしにって。いや、それは建前かな。ただ自分でそうしたいって思ったんだ。だからそれが俺の夢さ」

 乾が死んでから幾度もなく木場は考えた。
 自分はどうしたらいいのか。自分がどうしたいのか。

 想像する世界は未だに真っ白。先が見えない不安だらけ。その中、唯一見つけたのがそれだった。罪滅ぼしがしたいと思った。自分の命にはもうそれしか価値がないって。でもこうやって園田や菊池とたわいもない時間を過ごすうちに少し考えが変わったかもしれない。海堂に話している途中自覚した。自分の夢はそれでいいんだと。自分がそうしたいと思ったのだから。

 もっと何か反応が来ると思ったのに何も言わずただ真剣な表情をしているだけの海堂に、木場はなんだか恥ずかしくなって慌てて話題を変えてみる。

「海堂はこれからどうするの?」
「俺ってさぁ、あんたのこと好きなんだよね。前にも言ったことあるだろ?尊敬してる。あんたは良い人なんだよ。だから守る。あんたも、あんたの守りたい乾の夢も」

 海堂の発言に木場が驚く。未だに尊敬してもらえるとは思わなかったし、いつもは飄々しているせいですぐいなくなってしまいそうな頼りなさすら感じさせていた海堂が頼もしく見えた。なんて返せばいいのか分からなくなっていると、ちょうどそのとき園田と菊池が戻ってきた。

「海堂さんじゃん!」
「よっ!俺参上!つって」

 二人が近寄ると海堂はいつものような無邪気な顔に戻った。久しぶりの再会に菊池と盛り上がっては2人でバドミントンに行った。そんな二人を木場と園田が見守る。

「海堂くんも帰ってきたし、賑やかになりそうですね」
「そうだね。彼がいると退屈しないからね」

 海堂との日々を思い出して木場が笑う。その懐かしむような穏やかな顔に園田がほっとする。乾が死んでから木場が悩んでいたのは分かっていたけど、立場上自分たちが何を言っても却って逆効果になると思ったからなかなか行動ができなかった。だけど海堂も帰ってきて木場の笑顔がまた見れることに安堵したのだ。園田の気持ちが伝わったのか、木場が口を開く。

「俺ね、やるべきことが見つかったんだ。今度こそ大切なものを守れるようにね。もう遅いのかもしれないけど……」
「大丈夫です。きっと巧も結花さんも応援してくれますよ、木場さんのこと!」

 園田の笑顔に木場も笑顔で返す。今なら自分のことで精一杯で園田の心配に気づけなかったことが分かる。でも、もう木場は大丈夫だ。

「うん、そうだね。ありがとう」

 暖かい空気の流れる中、ふと強い風が吹く。シャトルコックが風に乗って2人の近くに落ちる。木場と園田の目が合った。木場がシャトルを拾って菊池たちのほうへ歩く。園田もそれに続く。

「木場さんもやります?」
「いいの?」
「じゃ、私も!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待った!まだ啓太郎と因縁の決着がついてないのだ!」
「大丈夫、ラケット3つあるから」
「でもひとつ足りないよね」
「そこは…根性でなんとかするとか?」

 4人でワチャワチャと盛り上がって、結局ラケット3つと近くに落ちていた木の枝でバドミントンが再開される。

 空に浮かぶ真昼の月が、彼らをそっと見守っていた。
 夢はいつまでも続いていくだろう。

終わり。